
『セックスしたことある?』ヨシカゲ・ハーマン・ゲイシー
それはたまたま女性陣が出払っていた、アジト(ハーマン宅)での、ほんのちょっとしたこぼれ話。
「お前らってさ。――セックスしたことあんの」
漫画を読みながら、ヨシカゲが不意にハーマンとゲイシーに問いかけてきた。普段そういった話題を嫌うものだから、2人は思わず目を合わせた。
「ずいぶん急な質問だな」
「なんとなく」
「なんとなくでする質問ではないような気がしますが……」
苦笑しながらゲイシーがはぐらかす。
「オレはある。一回だけ。女とだけど。でも、その時なんだか、気色悪いと思った」
「で、今に至ると」
ハーマンは納得いったように設計図に再び向き直った。
「で、どうなんだよ」
「俺はあるっちゃある」
「え!?そうなんですか!?」
ハーマンの言葉にゲイシーの方が驚いている。
「これでも40年生きてんだ。機会はいくらでもあった。でも俺から誘ったことはない。大抵、フリーク街の連中は、建築の代金を『金がないから身体で』とか言ってきやがる」
「それに毎回応じてるんですか!?」
「そんなワケねぇだろ。本当に払えそうにない相手だけ、一度してやったことはあるけど。メリットが1ミリも無かったからそのあとは一切やめた。金か命かどっちかにしてる」
「それもそれで極端な」
「んで?おまえは」
ハーマンの話に夢中になっていたゲイシーを逃がさんとばかりにヨシカゲが促す。
「私は――、ない、かな。まだ一度も、恋とか愛とか、したことがないから」
「……」
「けっ、愛だの恋だのでセックスするかどうか判断できるお前が羨ましいよ」
ヨシカゲが吐き捨てる。ハーマンが無言を貫いたのを横目に見つつ、ゲイシーは微笑んだ。
「だって!好きな人とした方がいいでしょう!?――まぁ、フリーク街に来てしまった今じゃ、そうもいかないでしょうけど」
「……なんで人間ってセックスをしようとするのかね」
「そりゃあ子孫繁栄だろ」
「でもそうじゃないパターンもあるだろ」
ハーマンの至極当然な応えに、ヨシカゲがひねくれて返す。
「……たぶん、満たされたいんじゃないんですか?」
「満たされる?」
「寂しい時、誰かに隣にいてほしい……そんな感覚と似てるんじゃないですかね?」
「それはちょっと違わないか?」
「――ハーマン、なんでお前が否定するんだ?」
「あ、いや、別に……」
ハーマンの焦るそぶりを見てゲイシーは屈託なく笑う。ハーマンは舌打ちをして再び設計図に向き直った。
「よくわかんねーよ。オレには」
「わからなくてもいいと思います」
「お前は嫌いなんだろ。だったらそれでいい」
「そういうもんかねぇ」
そう言いながらヨシカゲは、読んでいた漫画のセックスシーンのページを閉じて、タバコをふかした。
「テッドさんに聞かれでもしたら、怒られそうな会話ですね」
「だな」
ゲイシーとハーマンは、各々どこか寂しげに笑っていた。ヨシカゲには気付かれないように。