
たい焼き食べたい
「たい焼き食べたいなー」
それはジャックの何気ない一言から始まった。
「いいですね、たい焼き。そういえば最近食べてないかも」
みんなの前で平然と毒薬を調合しながら笑顔でゲイシーが応えた。
「毒調合しながら言われるの嫌すぎるな。でもいいよな、たい焼き」
ヨシカゲもゲイシーの様子に呆れながらも、少し小腹がすいた、という風に視線を空に投げる。
「いいねぇたい焼き。ぼくも久しく食べてないなぁ」
テッドも嬉しそうに話題に乗ってくる。
「ハーマンも絶対、糖分とった方がいいですからね!たい焼き食べましょ!」
「別にいらねぇ。たい焼きにも興味ない」
「えー!絶対食べなきゃダメです。食べさせます!私、今から買って来ます!みんなもちろん『カスタード』でいいですよね?」
「は?」「ん?」「え?」
ジャックの一言に、各所から疑問の声が上がる。
「ジャ、ジャック、たい焼きと言えばやっぱり、あんこじゃないのかい?」
テッドは驚いた、と動揺した様子で訴える。
「ありえねぇ、たい焼きと言えばあんバター一択だろ!」
ヨシカゲも頑なな態度で訴える。
「皆さん分かってませんねぇ。たい焼きと言ったら、焼き芋!これこそ至高です!」
「お前のこそ邪道だろ!」
「そんなことないですっ!すごくおいしいんですから!!」
ゲイシーが珍しく譲らないという態度で、3人は睨みあってしまった。
「あわわ、どうしよう……たい焼きって、種類が色々あるんですね……」
あまりにも殺気立った3人の様子に、ジャックも若干気圧されていた。まさか、たかがたい焼き一つでこんなことになるとは――。
「フリーク街出て、商店街の角2つ曲がったたい焼き屋」
「えっ?」
作図をしたままのハーマンが呟いた言葉に、一同視線をハーマンの背に向ける。
「どの味もその店舗においてある。全部買ってくりゃいいだろ」
「そうなんですね!じゃ、急いで買ってきます!」
ジャックは勢いよく、びゅんとアジトを飛び出していった。
「ていうか、なんでハーマンそんなこと知ってたんだ?」
「もしかしてあんなことを言っておきながら、実はたい焼きのヘビーユーザーだったり……?」
「おい聞こえてんぞ!」
ヨシカゲとゲイシーとテッドがコソコソと話していると、ハーマンのピシャリとした声が響いた。
「だってきみがそんな店を知っているとは意外だったものだから」
「たまたま通りがかった時、その店の構造が気になって、メニューも覚えていただけだ」
「ふーん、ほんとかねぇ」
ヨシカゲがなんとなく彼の様子を見てほくそ笑んだ。どうせまた、ただの『ツンデレ』だろう、と。
「ちなみにたい焼きぐらいは人生で食ったことあんだろ?正直何味が好きなんだよ」
「……あんこに、白玉が入ってるやつだよ」
「それ、あの有名な場所でしか買えないヤツですよね!?しかも並ばないと午前中に完売するっていう……!」
ゲイシーは知っていた。それはたい焼き屋ではなく、とある『カブキザ』という劇場でしか買えない人気スイーツだということを。
「やっぱおめー……さては元おぼっちゃんだな……?」
「ええいうるせぇ俺のことはいいだろ!黙って買ってくんの待ってろ!」
そうやってわちゃわちゃとしていると、ジャックがあつあつの袋を抱えて帰ってきた。
「ホントに全種類売ってました!ハーマンありがとうございます!はいみなさんどうぞ!」
「ありがとう!」「ん」「いただきます!」
「ハーマンにも、お店教えてくれたお礼です!」
ジャックは作図でこちらを見もしない彼のデスクの脇に、ぽんと紙袋を置いた。
「なんかみんな揃ってこうやっておやつ食べるのいいですね~いっただっきま~す!」
はむっ!とジャックがたいやきの頭にかぶりついた、その時――
「は?」「ん?」「え?」
再び時が止まるのを感じた。
「お前……、たい焼きは尻尾から食うもんだろ!」
「落ち着きなよ、細かくちぎって食べた方が美味しいだろう?」
「いえ!やっぱりこの薄皮の脇腹から――」
「てめぇら!!ごちゃごちゃぬかしてねぇでさっさと食ってろ!!!」
そんなこんなで、今日もハーマンの罵声で殺人鬼たちの日々は過ぎてゆくのであった。
おしまい